No.91 3月31日 自治体国取り合戦勃発

3月も終わりです。91話目です。
鉄道の開通は地域の活力を一気に高めますが、紛争の種にもなります。
新線開通でにわかに活気づく村に大騒動が起りました。
この小さな村に当初関心の無かった横浜市と川崎市の両市が
神奈川県橘樹郡日吉村をめぐって争奪戦を繰り広げました。
熾烈な騒動は4年に渡って起ります。
中傷合戦、暴力事件まで起き、最終的には神奈川県が仲裁に入り矢上川をはさんで東西に村が二分され決着を迎えました。

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1934年(昭和9年)のこの日、
横浜市にとって国取り合戦に有利な一つの契約が結ばれます。

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平成元年日吉上空
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明治14年矢上地区は起伏に富む丘陵地帯でした。

この日結ばれた契約は、
横浜市長(大西一郎)と慶応義塾塾長(小泉信三)、
そして東京横浜電鉄の取締役(五島慶太)の三者で出資し
日吉村に開設準備中の「慶応義塾大学日吉キャンパス」に
横浜市が水道供給しますという内容です。

第一条
甲(横浜市)はその経営に係る上水道に依りて乙(慶応)が神奈川県橘樹郡日吉村地内に新設したる校舎その付属施設に給水するものとす。
(経緯)
横浜市と川崎市の日吉争奪合戦は、1933年(昭和8年)6月にまず横浜市が日吉村にラブコールしたことに始まります。
これに対して遅れをとった川崎市が7月あわてて日吉村に合併を申し入れます。
そもそものキッカケは、東横線の開通と日吉駅の大変身計画で町が急激に変化しようとしていたからです。

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田園調布ほどではありませんが、放射状の宅地開発を設計

(東急の鉄道戦略)
大東急、五島慶太戦略は、沿線にリゾート施設、例えば温泉(綱島)を開発、大学を誘致し地域ブランド力をアップし周囲に住宅地を分譲するという戦後多くのデベロッパーが手本とした地域開発手法を駆使しします。
五島慶太は日吉駅の東側43万平米をかねてから分校用地を探していた慶応義塾に無償提供するので大学を開設して欲しいと提案し昭和3年に内定します。
それまで林野だったこの地域に学校と住宅地を造る訳ですから、インフラ電気水道が必須条件になります。
五島は平沼亮三を介して横浜市に水道施設を依頼します。
この時、横浜市は日吉合併がスムーズに行くとは考えていなかったようです。

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現在も後者の背後に広大な林野があり大学の体育施設が集中しています。

日吉村は矢上川をはさんだ7つの集落が明治初期に合併してできた村で、村民の主な生活圏は川崎市中原町でした。
鉄道の開通で地域が代わったとしても、日吉駅開発が無ければ恐らく川崎市中原区日吉町になっていたのではないでしょうか。
横浜市が水道施設契約で一歩リードすることで、形勢が逆転します。
川崎市より早く合併を申し入れたことも横浜市編入派が優位に立ちます。
しかし川崎市の巻き返しも熾烈でした。
住民投票が何度も行われますが、集落ごとに意見が分かれます。
4年に渡ってすったもんだしますが、昭和12年4月をもって、橘樹郡日吉村は矢上川東村落を川崎市、日吉駅を含む西側が横浜市となり現在に至ります。

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これでしゃんしゃんといったわけではありません。
日吉村分裂騒動は半世紀、1989年まで引きずります。
(かどうか???????)
横浜市港北区日吉の市外局番は、横浜市内(045)にも関わらず1989年まで044でした。
理由はNTT中継局がこのエリア中原局管轄だったために044にせざるを得なかったということですが、単純にそれだけでは無かった?
と勘ぐるのは悪い癖ですね。
慶応義塾は昭和9年、インフラ整備の見通しが立つと一気に学校建設を開始しますが、事前調査を行うと敷地から古墳や弥生式住居跡が発見され周辺からは国宝「秋草文壷」他、重文となる様々な出土品がありました。
創生期の日本人建築家を育成し、明治以後の日本建築界の基礎を築いたコンドルの弟子、曽禰 達蔵とその後輩 中條 精一郎や博物館明治村の初代館長となった谷口吉郎らが
精力的に日吉キャンパスの施設設計に携わりその作品が残っています。
学校建築でも、近代から現代へ
作品制作の場に地域開発が深く関わっていく始まりといえるでしょう。

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