No.290 10月16日(火)文士の大家さんは法律家

1892年(明治25年)10月16日の今日
「帰化米人小林米珂(ベーカ)が市役所へ出頭、納税の手続きをした。
帰化人納税のはじめである」(横浜歴史年表)とありました。
帰化米人「小林米珂(ベーカ)」はいかなる人物なのか?
調べてみると 意外や意外。面白い方向に展開していきました。

小林米珂(こばやし べーか)「横濱成功名誉艦」に出ていました。(上記)
株式会社鎌倉海浜院ホテル取締役で父の名が“ニコヲ二マラ”で文久の生まれ、神奈川士族小林南峰氏の養子になり山下町70番に法律事務所兼英国法律顧問を開き名声がある「日本における帰化外人中の古参」として有名とあります。
小林米珂は、
帰化前の名がJoseph Ernest de Beckerで、1863年(文久3年)7月に子爵ニコラ・デベッカーの三男としてイギリスロンドンに生れました。
アメリカ合衆国に渡り法律の教育を受け
1887年(明治20年)に来日し横浜を中心に活動します。
士族小林南峰の娘と結婚し、養子となり
1891年(明治24年)7月29日に婚姻届けを出し日本国籍を取得します。
外国人が日本国籍を取得するには日本の名が必要ということで「小林米珂」を名乗り、妻の実家であった神奈川県久良岐郡中村1,549番地に住まいを設けます。
外国人居留地に近い丘の中腹に位置します。

明治初期のマップで探してみました。

オフィスを山下町70に設け、「 代言人(だいげんにん)」現在の弁護士業と、日本文化の研究者として多くの著作を残します。

小林米珂の代表的な著作は「不夜城」(Nightless City)というタイトルで明治時代の東京吉原にある遊郭の現状を丸善から出版します。(当然英文です)
この「不夜城」を含め、明治初期の遊郭に関する一級資料として現在も研究者の基本文献となっています。

発刊当時は、かなり海外で批判があり論争の的となったようです。
読者の好奇心をいたずらに刺激するような偏見を避け、
日本的な“売春制度”を冷静に社会学的な視点で分析している点が人身売買肯定と解釈されたためのようです。
『不夜城』は当初
「英国社会学者(By an English student of Sociology)」として
1899(明治32)年6 月、横浜丸善書店より匿名出版されました。
次第に評価が高まり、現在でも版を重ねています。(版元は変わっています)

この「不夜城」の学術的評価は、著者のde Beckerが『嬉遊笑覧』『洞房語園』『吉原大鑑』『吉原大全』『江戸花街沿革誌』など50冊以上の文献を参考にし多角的に基本調査が行われている点です。
一方、日本の法律を数多く翻訳し海外に紹介した功績も大です。
法律もまた国際理解の基本であると同時に、国際紛争解決の重要な手段となります。
彼の足跡を調べている過程で、弁護士「小林米珂」が日本史上に残る大事件の弁護士を担当していたことが判ります。
シーメンス事件です。
ドイツシーメンス社側の代理人として弁護に立った記録が残っています。
外国人側の弁護士団の一人ではありますが、日本語が堪能な国際弁護士は当時少数だったと思います。

http://ja.wikipedia.org/wiki/シーメンス事件

1月23日 大正の正義

小林米珂は明治40年ごろ経済拠点を鎌倉に移していたようです。
鎌倉海浜院ホテル取締役の他、鎌倉で不動産業を始めています。

鎌倉海浜院H コンドルの設計

※鎌倉での活動にも興味が尽きません。
米珂屋敷と呼ばれる九軒の賃貸住宅を経営します。この米珂屋敷は当時の鎌倉に居を構える文学者に人気があり多くの作家が利用します。ドイツ語学者の菅虎雄(すがとらお)は、小林米珂との交流を通じて米珂屋敷に暮らした一人でした。
彼の推薦で高浜虚子大佛次郎が米珂屋敷に暮らします。

大佛次郎(野尻清彦)の下宿届け

親友だった夏目漱石、教え子の芥川竜之介、菊池寛らも菅虎雄家を訪れ、
鎌倉文士村形成に大きな役割を果たします。
大佛次郎は、鎌倉をこよなく愛し、鎌倉の景観保全活動の草分けとして活動したことは有名です。
横浜には「大佛次郎文学館」がありますが、彼が一時期暮らした米珂屋敷と関係があったとは意外でした
中々素敵な場所にありますからまだの方は是非どうぞ。

外国人が日本国籍を取得する「帰化」の手続きは大変な作業です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/帰化
国民の要件についても今回 考えさせられました。

日本の新聞黎明期に活躍したJ・R・ブラック
No.163 6月11日(月) 反骨のスコッツ親子

No.164 6月12日(火)JRJR

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