No.50 2月19日 横浜地裁で注目の公判

本日50話目です。
横浜市中区北仲にあった横浜地方裁判所(現在は国の合同庁舎)で1917年(大正6年)の今日、世間注目の公判が行われました。

(余談から)
横浜地方裁判所は、1872年(明治5年)神奈川県庁内に司法裁判所として設置され横浜市中区山田町に移転します。
1877年(明治10年)北仲通5丁目の“元フランス公使館跡”に新庁舎が建てられます。
1923年(大正12年)関東大震災により、倒壊焼失したため民家等で暫定業務を行い、まもなく横浜公園内の仮庁舎で業務を開始します。
そして、1925年(大正14年)現在の所在地である中区日本大通9番地に建っていた遠藤於菟設計の旧横浜生糸検査所を模様替えし移転します。
この建物は震災の影響をあまり受けることのない優れた建築でした。
地震、戦災でも朽ちること無く増床のために建て直すまで現役でした。
全国裁判所数々あれど、こんなに移転した裁判所は、横浜だけではないでしょうか。
(未調査ですが恐らく間違いないと思います)

話しを本題に。
世間注目の公判とは、「日蔭茶屋事件」のことです。
小説はもちろん、映画、舞台にまでなった有名な男女4角関係の色恋沙汰です。
事件は1916年(大正5年)11月8日、葉山にある江戸時代から(現在も)続く老舗日蔭茶屋の一室で起きました。
「東京日日新聞」の記者神近市子(28歳)が、元恋人、アナーキストの大杉栄(31歳)に包丁で斬りつけ怪我を負わせ自首したという事件です。
当時新聞雑誌等で有名になっていた二人です。現場には、大杉の新しい恋人、神近が記者になる前に勤めていた「青鞜社」の後輩 伊藤野枝(21歳)が一緒いました。
神近市子が身(資金)も心も捧げていたのに大杉はその金で、別の女 伊藤野枝と遊び回っていることに嫉妬し、刃傷沙汰に至ったという顛末です。
さらにこの二人には複雑な関係がありました。
被害者の大杉にはすでに妻、堀保子(大杉は夫婦別姓を主張)がおり、伊藤野枝には思想家、辻 潤という夫がいるダブル不倫だったからです。
しかも(被告)神近と伊藤野枝の旦那、辻 潤とは親交がありましたから、この色恋沙汰の行方に世の中(新聞雑誌)は沸き立ちました。
大杉栄、伊藤野枝は当時多くの議論を巻き起こした「自由恋愛」を主張していました。
自由とはいえ恋愛関係に理屈は通りません。
この事件のあった明治後半から大正期は雑誌創刊ラッシュの時代でした。
女性の意識が大きく変化しつつある時代でした。女性を読者とする(婦人)雑誌が50誌近く創刊され、テレビラジオの無い時代の最大の娯楽メディアとして育ったのです。
平塚らいてうが創刊した「青鞜」もその一つでした。
他にもざっと調べただけで
「女学雑誌」「以良都女」「花乃園生」「女鑑」「家庭雑誌」「大倭心」「女学世界」「をんな」「婦人界」「家庭の友」「婦人画報」「婦人世界」「婦女界」「淑女かゝみ」「婦人評論」「大正婦女社会」「家庭之園芸」「女の世界」「婦人週報」「婦人公論」「黒潮」「主婦之友」「才媛文壇」「処女文壇」「千葉県婦人脩養と文芸」「人間社会」「中外」「文明批評」「女子文芸」「抒情文学」「人間」「演芸」「女性日本人」「婦人くらぶ」「夜の幕」「恋と愛」「青春時代」「処女地」「女性」「女性改造」「世界趣味写真帖」「村雲」「新興」「愛の泉」「テアトル」「秀才文芸」「生活者」

といった雑誌が創刊されました。この雑誌発行部数を引き上げた特集が自由恋愛を標榜していた彼女達の発言、投稿、行動だったのです。
例えば、神近市子は雑誌に「私事このたび大杉栄氏と従来の関係を絶ちましたので、是まで何かとご心配された方々に対し、とりあえずご報知申し上げます」といった広告で私生活を公開して行きます。
当然批判も雑誌で展開されます。
「日蔭茶屋事件」に至っては犯人が社員だった「東京日日」対他社で報道合戦が過熱します。
横浜地方裁判所で開かれた公判で神近市子は懲役3年の判決を受けます。神近市子とともに新宿中村屋で朗読会に参加していた仲間、秋田雨雀はこの公判を毎回傍聴し、暖かく彼女を見守ります。
大杉、伊藤はその後事実婚となり社会運動に傾倒していきますが、関東大震災のどさくさに甥の橘宗一と共に憲兵に連行され殺害されます。
この事件は、闇に葬られず世間を騒がせます。主犯として憲兵大尉の甘粕正彦と彼の部下は有罪になります。
「日蔭茶屋事件」をテーマにした作品

深作欣二監督「華の乱」東映(京都)作品
吉田喜重監督 映画『エロス+虐殺』
瀬戸内晴美『美は乱調にあり』
地人会第22回公演 ブルーストッキングの女たち
劇団俳小32回本公演 美しきものの伝説

※今回は 完敗です。要素が大杉で 否 多過ぎて 消化不良です。単純に整理すれば良かった。
リベンジしますこのネタは。面白い。

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