新聞記事の大見出しに、乾いたような嫌悪感と同時にやるせない無力感が襲った。
1983年(昭和58年)の今日、神奈川県警察の合同捜査本部は少年グループを傷害致死の疑いで逮捕した。
「横浜浮浪者襲撃殺人事件」の衝撃的報道だった。
青少年犯罪は時代の鏡だと思う。
70年代後半から80年代に入り、学校が崩壊し始める。
川崎の金属バット事件(1980年11月)が大きく報道されたが、社会はこの事件を教訓とすることが出来なかった。
自殺者が減らないと同様に異様な少年犯罪も減らないことはこの国の赤信号である。
「横浜浮浪者襲撃殺人事件」は
横浜市南区内の二つの私立中学生を中心にしたグループ「恐舞連合」によるホームレス殺傷事件である。
彼らの合い言葉は「今夜、タコろうや!」だった。
中学2年生(当時14歳)3人、3年生(当時15歳)2人、定時制高校生(当時16歳)1人、その他無職少年(当時16歳)4人の計10人の少年たちは、マリナード地下街から始まって、関内駅周辺の植え込み、横浜スタジアム、山下公園、中華街、石の広場、寿町ドヤ街、国電石川駅まで決まったコースを巡回し「浮浪者襲撃」していた。
2月5日夜、横浜スタジアム周辺で7人に「おまえらのせいで横浜が汚くなるんだ」と叫びながら暴行、「今日はもう一つスカッとしないな」と話し合って、山下公園に移動し午後10時ころ青森県生まれの須藤泰造(60歳)さんに対し、集団で殴る蹴るの暴行を加え、さらに動けなくなったところを、数人がかりで抱き上げて、ゴミカゴの中に投げ入れて転がしたり引き回しそのまま放置して逃走。
須藤さんは通行人(観光客)の通報によって救急車で病院に収容されるが死亡する。肋骨四本骨折、内臓破裂だった。
「浮浪者襲撃」の動機は実に恐ろしく単純だった。
中区元町を縄張りとするグループ「中華連合」に喧嘩で完璧に負け、その悔しさからケンカの練習台を弱者に向けたからだ。
警察の取調べに対して
「横浜を綺麗にするためゴミ掃除しただけ」
「乞食なんて生きてたって汚いだけで、しょうがないでしょ」
「乞食の味方をされるなんて、考えもしなかった」
「なぜこんなに騒ぐんです。乞食が減って喜んでるくせに」
と自供した。
(※乞食は差別的表現だが当時の事実としてそのまま表記する)
また「浮浪者が逃げ惑う姿が面白かった」
「退屈しのぎに浮浪者狩りを始めた」
「スリルがあった」とも自供した。
被害者の証言によると、暴行グループには女性が加わったときもあり、他に幾つか浮浪者狩り集団が存在し以前から暴行が行われていたという。
誰も気に留めていなかった。
見て見ぬフリをしていたという。
この事件に関しては
佐江衆一さんの「横浜ストリートライフ」に詳しい。
【関連事件簿】悉皆網羅していません
昭和58年(1983)
★京都府で河川敷の野宿者に中学生グループ投石、ケガさせる。
★東京都で公園の野宿者、少年7人に襲われる。
★大阪府で中高生グループ、角材で野宿者襲う、2人ケガ。
★東京都で少年2人、寝ていた野宿者に火をつける。
昭和60年(1985)
★東京都板橋区の荒川河川敷で、無職少年(15〜19)4人と無職(20)の5人グループが、ホームレス(42)を金属バットやバールで袋だたきにして6ヶ月の重傷を負わせて橋の下に放置。
昭和61年(1986)
★野宿の日雇い作業員が、中・高校生とみられるグループに大型爆竹と、こぶし大の石で集団襲撃され、2人が失明。
昭和61年(1986)
★東京都新宿区の西戸山公園で、少年(19〜17)3人と見張り役の中学3年生女子2人、無職(22〜20)の12人が花火を至近距離から発射、投石、木刀で殴打、1人を失明させ逮捕。
★大阪市四天王寺境内で、中・高生3人組が、就寝中のホームレス5人をエアガンで襲い、傷害を負わせた。
★大阪府でサバイバルゲームとしてホームレスを襲撃、高校生を逮捕。
★大阪府で、中学3年生4人が他の襲撃事件をまねて、ホームレスを「早く死ね」と竹ぼうきなどで殴打。
昭和62年(1987)
★中学3年生5人、公園に野宿していたホームレスをからかい棒等で暴行、脳挫傷等の重傷を負わせる。
★兵庫県でホームレスに投石・放火した中学生5人補導。
★大阪府で釜ヶ崎の野宿労働者、中高校生らにエアガンなどで襲われる。
昭和63年(1988)
★東京都台東区山谷地区の路上で中学3年生2人高校1年生2人無職少年(16)2人の6人組、日雇い人夫をナイフで刺し2週間の傷害を負わせる。続いて公園で寝ていたホームレスを看板で殴って2週間の傷害を負わせ逮捕。「スカッとするため」と自供。
★神戸市大倉山公園で、中学生5人が野宿者2人に消火器の泡をかけて暴行し逮捕。「逃げ回るのが面白くてやった」
平成1年(1989)
★大阪府で戦争ゲームの中学生2人ホームレス襲撃し補導。
平成7年(1995年)
★道頓堀で複数の少年ホームレスを道頓堀川(水深3.1m)に投げこみ死亡。
★京都鴨川で未成年の作業員2人、住居不定の男性に言いがかりを付け、殴る蹴るの暴行。
★無職少年等3人公園のベンチに寝ていた被害者に「向こうに行け」「無視するとは何事だ」などと言いがかりを付け、頭部、顔面、腹部等を足蹴りするなどの暴行、膵臓破裂による出血性ショックにより死亡。
平成9年(1997)
★有職少年、無職少年2人、高校1年生の4人は公園で野宿していたホームレスに対し「ケラチョ狩り」と称して集団で殴る、蹴るの暴行、外傷性くも膜下出血により死亡。
平成12年(2000)
★大学生(18)、アルバイト店員(19)は、会社員(20)の3人、墨田区亀沢のJR総武線ガード下で就寝中のホームレスの男性を金属バットで殴打し1人死亡、4人が傷害。
「日々の生活にいらいらしていた。ホームレスを殴ったり蹴ったりすると気分がスカッとする」。
★高校1年生(15歳)、高校2年生2人(16歳、17歳)、成人男性(20歳)4人、歩道上で寝ていた路上生活者2名に対して、殴る蹴るの暴行を加え1名死亡、1名負傷。
平成14年(2002年)
★東村山で中2四人による注意されたホームレスに逆恨みで傷害致死事件
★熊谷・中2の三人によるホームレス暴行死事件
平成15年(2003年)
★長崎市で中学1年の男子生徒(当時12歳)が大型電器店から幼稚園児(4歳)を連れ出し、そこから4キロ離れた立体駐車場の屋上から全裸にして20メートル下に突き落として殺害。
平成16年(2004年)
★姫路で少年が放火、足の不自由なホームレス焼死事件
★長崎県佐世保市で小学6年の女子児童(当時11歳)が自分が通う小学校内で同級生の女子児童(12歳)をカッターナイフで殺害。
平成17年(2005年)
★姫路市内に住む少年4人のうち高校3年・A(当時18歳)、中学3年・B(当時15歳)火炎瓶を投げて路上生活者を殺害。