(速報)芥川賞、円城塔『道化師の蝶』と田中慎弥『共喰い』の2作が受賞
(17日朝)本日、第146回芥川龍之介文学賞が発表される。前回は該当者無しだった。過去に横浜出身の芥川賞受賞者はざっと調べた所では6名いた。最初は第9回受賞の保土ケ谷出身、半田義之の「鶏騒動」である。
第84回尾辻克彦(赤瀬川原平)の「父が消えた」、第105回荻野アンナの「背負い水」、第116回柳美里の「家族シネマ」が有名な所だが、第67回宮原昭夫の「誰かが触った」と第68回郷静子「れくいえむ」も忘れてはならない。今日は、中でも郷静子について紹介しておく。
芥川賞とは、純文学の新人に与えられる文学賞。大正時代の文学者を代表する芥川龍之介の業績を記念して友人の菊池寛(文藝春秋社創始者)が昭和10年(1935年)に直木賞と共に創設した。
年二回を原則に選考委員の議論で決まるが応募方式ではない点が特徴だ。現在の選考委員は石原慎太郎・小川洋子・川上弘美・黒井千次・島田雅彦・高樹のぶ子・宮本輝・村上龍・山田詠美の各氏。選評は公開される。
郷静子は1929年に横浜で生まれ、鶴見高等女学校(現・鶴見大学附属鶴見女子中学校・高等学校)卒。1972年、戦時中の体験(特に横浜大空襲)を描いた中編『れくいえむ』を『文學界』に発表、同作で第68回芥川賞を受賞した。一冊のノート(日記)を軸に末期の戦争、特に横浜大空襲を生きる軍国少女が体験する終戦を描いている。
文庫化された文春文庫では芥川賞の先輩第67回受賞の宮原昭夫が解説を書いている。この中で、宮原は
「青春にしか許されない、ひたむきな正義感が、ある時代には「立派な軍国少女」たらんと刻苦することに当人を追いやるしか無い、ということの、この無惨さ。」と評している。
9人の文学賞選考委員の中で、中村光夫は
「推しました。素人くさい粗雑さが構成にも文章にも指摘され、リアリズムの観点から見れば、破綻だらけといってよいのですが、結局読ます力を持ち、最後まで読めば、強い感銘をうけます。」「こういう混沌とした強さは、とくに新人に望ましいのですが、近ごろはこれと反対の傾向が幅をきかせています。」「ともかく、欠点がそのまま魅力になったような、この一作は珍重すべきでしょう。」と強く評価した。
一方、舟橋聖一は「二八〇枚の力作だが、芥川賞の銓衡内規では、枚数超過で、寛くみてもスレスレのところにある。長すぎることが、この作品をより素人っぽくしていることは否み難い。」「あくまで戦中の体験と事実に立脚した小説であるのに、主人公節子を殺すことが嘘だと言っては過酷なら、小説作りのための御都合主義だという点が、私がすっきり出来なかった理由である。」と辛辣だ。こういった選考は難しいものだ。
昨今の文学状況では一体どのような評のもとで誰が受賞するのか、愉しみである。
発表されたら少しコメントを加えるかもしれない。
文藝春秋社
第146回芥川龍之介賞候補作品(平成二十三年度下半期)
石田千「きなりの雲 」(群像十月号)
円城塔「道化師の蝶」(群像七月号)
田中慎弥「共喰い」(すばる十月号)
広小路尚祈「まちなか」(文學界八月号)
吉井磨弥「七月のばか 」(文學界十一月号)
第146回直木三十五賞候補作品(平成二十三年度下半期)
伊東潤「城をませた男」(光文社)
歌野昌午「春から夏、やがて冬」(文藝春秋)
恩田陸「夢違」(角川書店)
桜木紫乃「ラブレス」(新潮社)
葉室麟「 蜩ノ記」(祥伝社)
真山仁「コラプティオ」(文藝春秋)