No.118 4月27日 蟹とたはむる

東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる
1886年(明治19年)に生まれ26歳で亡くなった石川啄木の代表作品「一握の砂」の冒頭歌です。
啄木ファンには申し訳ありませんが、私生活のひどさは日本文学史上ベストスリーに入るのではないでしょうか。
それでも彼を支援する人たちのおかげで、彼は生き彷徨うことができたのです。
1908年(明治41年)4月27日の午後6時頃、石川啄木22歳を乗せた三河丸が横浜港に着岸します。彼のつかの間の横浜滞在エピソードから今日の話しを進めることにします。

石川啄木

冒頭の石川啄木「一握の砂」には

函館なる郁雨宮崎大四郎君
同国の友文学士花明金田一京助君
この集を両君に捧ぐ。予はすでに予のすべてを両君の前に示しつくしたるものの如し。従つて両君はここに歌はれたる歌の一一につきて最も多く知るの人なるを信ずればなり。

とあります。

宮崎 大四郎(1885年〜1962年)は、北海道時代から亡くなるまで変わらぬ敬愛の情と、援助を惜しまなかった人物です。啄木より一歳年下で啄木の夫人節子の妹堀合ふきと結婚し終生家族付き合いがあったそうです。

すごいのが金田一京助(言語学者)1882年〜1971年)で、盛岡中学時代の後輩だった啄木に対し、家財道具を売って金を作り、家賃を肩代わりしたりしました。
その間、啄木は人の金と借金で放蕩三昧していることを知っていても見守ります。
金田一がいなければ間違いなくもっと早く啄木のたれ死にだったに違いありません。
それでも、憎めない人間性が啄木にはあったのでしょう。

啄木にとって北海道、特に函館は特別な場所だったようです。
「僕は矢張死ぬ時は函館で死にたいやうに思ふ」
 と書簡に残しています。
岩手、渋民尋常高等小学校の教職を離れ、北海道に渡ります。函館の文芸結社苜蓿社、函館商工会議所の臨時雇い、「函館日日新聞」遊軍記者、札幌で『北門新報』、『小樽日報』の記者になりますが内紛で退社、釧路新聞社(現在の釧路新聞社とは無関係)でも上司と上手くいきません。
石川啄木22歳、単身上京を決心します。

(函館から船に乗って横浜に着いた)
1908年(明治41年)4月25日午前4時半「横浜行き郵船三河丸」啄木を乗せ東京へ向け出港します。
船中、啄木は(面識の無い)横浜正金銀行預金課長「小島久太(烏水)」を「新詩社同人名簿」から発見、横浜に着いたら面会したい と手紙を送ります。
(恐らく寄港地「宮城県萩の浜」から出された)
※当時、寄港地から出す手紙の方が船より速かったようです。
4月27日午後6時横浜港に着き弁天通5丁目の長野屋(現:横浜平和プラザホテルあたり。現在と関係があるかどうかは不明)に泊まります。
約三日間の船旅でした。
4月28日啄木は床屋に行き、身だしなみを整えます。
1873年12月生まれの「小島烏水」(本名 小島久太)はこのとき34歳、1886年2月生まれの石川啄木は22歳、一回り違う年の差でした。
「港内の船々の汽笛が、皆一様にボーッと鳴り出した時、予は正金銀行の受付に名刺を渡して居た。
応接室に待つ事三分にして小島君が来た。
相携へて程近い洋食店の奥座敷に上る。」

県立歴史博物館(旧横濱正金銀行)

2月28日 アジア有数の外為銀行開業

4月27日付けの船中便で、親友宮崎大四郎宛に「明日烏水君と会食の約あり」と勝手に書いています。5月2日東京から同じく
「一洋食店に小島君と会食して快談いたし候、誠によい紳士にて、今後若し小生が職でも求める際は出来る限りの助力をすると申居り候」
と送っています。

食後、午後2時の電車で横浜駅(現、桜木町駅)から東京に向かい3時に新橋に着きます。

タメ口の石川啄木、
小島 烏水にとって、突然の来訪者でした。啄木を暖かく迎えたようです。

さて、石川啄木と小島烏水は当時 どこで昼食を食べたのでしょうね。
明治41年ごろですから、いろいろあったでしょうね。

No.400 横浜洋食巡り

西区戸部に育った、小島 烏水のエピソードもいろいろありそうです。
山崎紫紅(22)が書いた郷土史「戸部史談」の序文を担当したり、木暮理太郎、田山花袋、バジル・ホール・チェンバレン(王堂チェンバレン)、ウォルター・ウェストン、滝沢秋暁、伊良子清白 他広い交友関係がありました。
浮世絵や西洋版画の収集家・研究家としても知られ収集した浮世絵や西洋版画のうち900点余りが、横浜美術館に「小島烏水コレクション」として収蔵されています。
http://www.yaf.or.jp/yma/exhibition/2006/special/04_kojima/index.html
横浜美術館
http://www.yaf.or.jp/yma

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