No.271 9月27日(木)酒は国家なり

神奈川県史料をペラペラっとめくっていたら面白い通達が出ていました。
1876年(明治9年)9月27日(水)付けで
「第三十五 洋酒一杯売戸数制限之事」とありました。
今日は明治の酒場模様?をちょっと探索してみます。

本文とは関係ありません

神奈川県は第1大区内の洋酒1杯売業者の軒数を20店に限り、
営業許可する通達を出します。(たった20店です)
第1大区内とは、全国一律の戸籍を作るための準備として区割りした呼び名です。神奈川県の第一大区は当時の横浜町(中区一部)で、1878年(明治11年)に郡市区町村制が施行されるまで使用されました。
「一杯売」とはなんだ?ちょっと調べましたが(2012年9月27日現在)にわか調査では不明です。いわゆる酒屋さんに併設されている(た)立ち飲み屋さんのことなのか?
手元にある資料では「電気ブラン」の神谷バーの神谷さんが「一杯売」で資金を作ったとあります。「電気ブラン」は東京都台東区浅草にある神谷バーの創業者、神谷伝兵衛が作ったブランデーベースのカクテルで、現在もボトルで復活販売されています。
このお達しには、附則があります。「但、洋酒小売(瓶詰)営業戸数ノ儀ハ七年十二月十八日達洋酒小売規則〜」と別に規定していますから、恐らく“洋酒一杯売”は(私は)BARの走りではないか(全く確証はありません)と想像しています。

ミモザ

なんといっても、
日本の洋酒を日常飲むシーンは横浜から始まります。
江戸時代に珍品として飲まれていたレベルではなくビジネスシーンとして洋酒が街中で飲まれるようになったのは、居留地のあった横浜です。
記録に残る初めての輸入洋酒は、1870年(明治3年)のジンと言われています。
翌年の1871年(明治4年)に、横浜山下町にあったイギリス商館カルノー商会がウイスキー(ウスケなんて言ってました)を輸入した記録が残っています。初輸入のウスケは“肩張丸形”の瓶に入った「猫印ウイスキー」でその後、ジン、ウイスキーに続き、ヘネシーなど三種類のブランデー、ラム酒、ペパーミント、キュラソー、シャルトルーズ、マラスキーノの各リキュールが輸入されました。

本文とは関係ありません

いずれも明治初期の輸入量はごく少量だったようです。
値段も高く、販売ルートも限られていたため在留外国人の飲み物だったのでしょう。ところが、新もの好きのハマッ子、1871年(明治4年)には、早くも国産洋酒が登場しているのです。国産と言えばカッコいいですが、洋酒と言いながら、似て非なる「イミテーション」として登場します。
そこで、冒頭の「第三十五 洋酒一杯売戸数制限之事」のお達しが出たのではないでしょうか。

世界どこでも「酒」は国家を支えています。
酒飲み納税諸氏よ、もっと主張しろ!

1899年(明治32年)とちょっと後のデータになりますが、国税総額1億4,513万5千円に対し、酒税は4,900万9千円で、国税総額の34%も占めていました。
税収増は国家の最大関心事でナーバスです。(使い方は乱暴ですが)
新しい国家、明治政府の税収規則はめまぐるしく変更されます。施行しては反対にあったり、矛盾が生じ廃止・変更を繰り返しています。まあ税は国家の「個性」みたいなものですから初期の明治政府は憲法も無く混乱していたのでしょう。

1871年(明治4年)7月に「清酒、濁酒、醤油醸造鑑札収与並びに収税法規則」が制定されます。
これは、それまで日本の酒税の主流だった酒造株を廃止し、新規営業を自由とします。その代わり有料の「免許鑑札」を設けます。そこに免許税と醸造税(従価税)を課すことで税収を図ります。これによって酒造業の営業の自由が保証され、酒造メーカーが急増します。

おそらく、洋酒には関税以外に税がかかっていませんから「洋酒もどき」が増えるのは国税当局には不正と映ったのではないでしょうか?
なにせ、戦前の酒税の歴史は「どぶろく」規制の歴史でもあります。税がかかるなら自分で造る!それはまかりならぬ!という、現在の合成ビール課税騒動に続く狂想曲ですね。

横浜の洋酒文化をリードしてきたのは、なんといっても居留地の“ホテル群”でした。幕末から明治、大正頃まで外国人経営のホテルが生まれては消えていきました。これらのホテルには必ず「酒場」があり、カクテルも嗜まれます。横浜生まれの“カクテル”が幾つか生まれましたが、無名のオリジナルも生まれては消えていったのではないでしょうか。
このテーマをキッカケに一冊の本を読んでいます。
 横浜のホテルと界隈文化にも禁断の木の実のように興味がわいてきました。(今年中にはご紹介できるでしょう)

2月16日 ヨコハマグランドホテル解散

No.134 5月13日 必ず素晴らしい日の出が訪れる

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