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No.257 9月13日(水)司法とアジアの独立

明治5年9月13日(1872年10月15日)の今日、
横浜港から229人の「清国難民」が解放され母国へ帰国の途につきました。
司法の独立をかけたマリヤ・ルス号事件の第一幕が降り、第二幕への幕間となった歴史的瞬間でした。

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神奈川県庁、手前が横浜地検・地裁

マリヤ・ルス号事件は横浜港内で起りました。
明治5年(1872年)に横浜港に停泊中だったペルー船籍の「マリア・ルス号」から一人の清国人が海へ逃亡しイギリス軍艦(アイアンデューク号)が救助したことが発端でした。
3年にも渡るマリア・ルス号事件の第一幕の幕開きです。blog-E7-9C-8C-E5-BA-8105-7.57.34

マリヤ・ルス号には清国人苦力(クーリー)が231名乗船していました。
契約上は移民でしたが事実上の人身売買“奴隷”として母国を離れた者たちでした。

※中国 苦力(クーリー)は、主に南北アメリカに向け、奴隷制が廃止され、黒人奴隷が解放されたあと労働力を移民に求め、中国人移民が導入されます。事実上のアジアの奴隷だった苦力(クーリー)として導入された中国人の数はペルーだけでも1850年から1880年の間に10万人を越えました。

苦力の一人が、過酷な待遇から逃れる為に逃亡し、身柄を預かったイギリス船はマリア・ルス号を「奴隷運搬船」と判断します。
ただちにイギリス領事館は日本国政府(副島外務大臣)に対し清国人救助を要請、副島は当時の神奈川県参事(副知事)大江卓に調査の命令を出します。
大江は横浜居留地取締局ベンソンと「マリア・ルス号」を訪れ直接清国人から事情聴取します。
逃げた清国人は「マカオで誘拐に遭い、無理矢理やり連れてこられた」旨訴えます。
※当時横浜居留地は、治外法権エリアで外国人が横浜居留地取締を行っていました。
No.185 7月3日(火)実録「居留地警察」

当事者の話し、移住約定書や船貸渡書等の確認を行い政府に報告し、ペルー船を調査のため出港差し止めにしますが、「マリヤ・ルス号」船長は無視しようとします。
当時、日本とペルーには二国間条約が締結されていませんでした。
日本の主権独立を主張し大江は、清国人全員を(強制)下船させます。
これは画期的というか人道的“英断”といえる行為でした。

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当然、ペルー側(マリ・アルス船長)は、「移民契約」を楯に“移民とともに”出港を要求します。
さらには、フランス、ポルトガル、ドイツ、アメリカ、イタリア、ベルギー、ポルトガル、オランダ、デンマーク領事連名で
「海賊の所為を除く外、公海上のことは、日本政府の処断するところではなく、例え、船が賣奴を乗せたとしても海賊ということではない。」
と強烈な圧力をかけてきます。
「賣奴の一件は、日本法律及び規則上にかつて禁制するところにあらず。清國船客と約書上に記入する人と結ぶところの約定は、各国にて平常のことなり」
見事に日本の弱点を撞いています。
さらに厳しかったのは、法体系も未整備でした。
憲法すら無い状態でした。(明治憲法は明治22年制定)

しかし、日本政府は現行の法律を元に
神奈川県庁に特別裁判所を設置し、二度に渡って裁判を行います。
裁判長は大江卓(25歳)でした。

一方で、指摘された芸者の売買に関する国内法の整備を急ぎ
「人身売買」を禁止する太政官295号を発布します。(明治5年10月)
※泥縄という感じもしますが、行わないより良い。

ペルー(船長)側には、居留地の各国の圧力、そしてイギリス人ディケンズ代言人(弁護人)となります。
清国人の奴隷は問題だが日本はそれ以上出しゃばるな!という状況でした。
列強の圧力同様に、
日本の遊女制度は娼妓という「人身売買」である、だから奴隷売買を非難する資格は日本にないと主張します。

大江は、国際法に照らしても今回の契約は通常のものではないと断じ、清国人の解放を条件に出港差し止めを解除する と判決を下します。
清国政府は日本の処置に対し謝意を表明します。
(実は)この時期、日本と清国も沖縄を巡って紛争中で、微妙な国際バランスの上にあったことは事実ですが、大江卓の法律的な判断、国家としての威厳を国内外に示したことは
欧米列強にアジアの新興国の司法の独立を認識させた事件として、
極めて重要な意味をもっています。
しかし、国内法によって神奈川権令大江卓が裁いたこの事件には、第二幕が待っていました。

(第二幕は、番外編で)

No.390 危なくない?デカ。

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