No.706 シルクを知る苦労?!

横浜は幕末明治の国家予算を支えた「シルク」の最大輸出港でした。
このシルク(絹)は「蚕(かいこ)の繭(まゆ)からとった、天然繊維」程度しか知識がなかったので少し<絹>を調べてみました。
(桑は蛾の餌)
桑の実食べたことありますか?酸っぱくて美味しい果実です。この桑の葉に着く<害虫?>がカイコ蛾です。逆にカイコから見れば、桑の葉は大切な餌となります。
桑の実よりカイコによる絹のほうが付加価値がありますから、桑畑はカイコ蛾のために守られてきた近代までの原風景の一つです。
カイコの繭から良質の繊維(糸)が得られることは古代から知られていました。
日本でも
「日本への養蚕技術が伝わったのは紀元前200年くらい、稲作といっしょに中国からの移住者(日本人の祖先のひとつ)が、伝えたといわれています。」
「283年には秦氏が養蚕と絹織物の技術を伝え」た記録があります。
それでも国内需要は満たされず江戸時代まで中国から大量に輸入されていたそうです。江戸に入ると諸藩が殖産事業として<養蚕>を推奨し技術も向上し良質の絹が生産されるようになり輸出力がついた頃、ペリーが訪れます。
※山下公園前に建っているシルクセンター横には<桑の木>があります。
No.56 2月25日 絹と女と桑畑

No.56 2月25日 絹と女と桑畑

(生糸と絹?)
一時期、日本の貿易を支えた「生糸(きいと)」
「絹」とは違うもの?同じもの?
蚕が自分の口から吐き出したタンパク質の糸で作った蛹(さなぎ)の保護容器が繭(マユ)です。カイコはまず卵から「孵化」し睡眠と脱皮を繰り返して4回目に成長が止まり繭作りが始まります。繭が完成すると幼虫は自ら蛹(さなぎ)化し眠りに入りますが、このタイミングを狙って採糸が始まります。
一個の繭から一本約800m〜1,200m近くの糸が取れるそうです。一本だけでは細すぎますので数個の繭から数本の糸を合わせ出来上がったものが<生糸>です。
☆生糸(きいと)
いわゆる蚕の繭からとった糸で、数本を合わせたもの。撚りも加えず、精練しないものを指し最高級品となります。
この「生糸」、取り出しただけの状態では<糸>の外部にセシリン(タンパク質)が付着していて染色や加工には不便なので精錬して使用されることが一般的ですが、高級シルクはこのセリシンを活かした風合いの繊維として利用されます。
「【セリシン】は、絹になるフィブロインを取り囲むタンパク質。人間と共通した18種類のアミノ酸(タンパク質を構成する物質)で構成され、その中でも重要なうるおい成分であるアミノ酸【セリン】を多く含んでいます。絹のなめらかな肌触りと快適な着心地には、この【セリシン】が大きくかかわっていると考えられます。」
http://www.seiren.com/products/medical/serisin/serisin.html
※セリシンは化粧品等にも使われています。

☆練糸(ねりいと)
生糸を精練してセシリン(タンパク質)を取り除いたものです。
絹練糸とか「絹糸」ともいわれます。
■絹糸の太さ(繊度)は、デニール(d)という単位で表します。1デニールは糸長450mで0.05gで基準はg数/糸長900mで表記します。

☆玉糸(たまいと)
普通1匹の蚕は1個の繭を作りますが、中には2匹以上の蚕が合わせて1個の繭を作ることがあり一種の格落ち品となります。これを玉繭といい、その糸を玉糸といいます。つまり糸を取り出すときに2本の糸がもつれ合うことがあるので節の多い糸となってしまい節糸とも呼ばれました。

☆絹紡糸(けんぼうし)
繭から「生糸」をとる際に出てくる色々なくず繊維を副蚕糸といい、これを原料として紡績した糸を絹紡糸といいます。

☆絹紡紬糸(けんぼうちゅうし)
この絹紡糸を作る時に出る「くず繊維」から紡績をした糸を絹紡紬糸といいます。
ビス糸とも呼ばれるものです。

☆紬糸(つむぎいと)
くず繭からとった真綿(まわた)を手で紡いだものです。

以上これらを「絹」と総称しますが、
「生糸」がいかに上質の絹糸であるかがお分かりになると思います。
※生糸品質を維持するために作られた機関「生糸検査所」は現在の「第二合同庁舎」にあたります。

(養蚕の工程)
蚕卵が孵化して幼虫になるにはどのような工程を経るのでしょうか?
蚕は産卵から50〜60日前後(羽化から約2週間)で一生を終わります。
●産卵・孵化→カイコは蚕卵紙(さんらんし)に蚕の卵を産み付けます。
●蟻蚕→孵化したての蟻(アリ)のように見える幼虫が誕生します。
●掃立→蟻蚕を孵化していない卵を痛めないように羽箒でそっと掃いて、飼育のために整えたカイコが落ち着く場所(蚕座)に移す作業を行います。
●給素→カイコに<桑の葉>を与えます。
●眠起蚕→睡眠と脱皮と食餌を繰り返します。
●営繭(えいけん)→カイコが繭を作ります。
●収繭(しゅうけん)→蔟(まぶし)の中から繭を取り出す作業です。
●座操(製糸)→座って糸を操て製品化する作業です。
light_20150112130556座操製糸 明治半ばから大正にかけ、器械製糸生産に移行します。
※日本が世界有数の高品質<生糸>を生産できた背景には、養蚕業の周辺技術がありました。日本の紙漉き技術で良質の蚕卵紙(さんらんし)が生産され、養蚕を下支えしました。
light_20150112130533給素

簡単に養蚕・絹の生産工程を追いかけてみました。
さらに細かい工程や専門用語がありますが、一部省略しております。
このシルクを使った<捺染>技術が横浜に育ちました。ここから横浜スカーフが誕生し花型輸出製品として活躍します。横浜周辺の川辺には<捺染工場>が集中し一時期は川が染料で染まるほどだったそうです。

横浜捺染の話も近々紹介します。